甘美な海で、君と溺れる

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部屋の中へと招き入れたとたん、あなたの携帯電話が高らかに騒ぎ出した。 あなたは私に荷物を押しつけるように持たせ、電話を持ったままベランダへと出る。 窓硝子ごしの背中を見つめながら、私はあなたの持っていたブリーフケースと紙袋を部屋の隅に置いた。 あなたが夜空を見ながら電話に話しかけているのを確かめて、紙袋の中を覗く。 そこには、透明のビニールで綺麗にラッピングされた、赤ちゃん用の靴下と帽子が入っていた。 私はキッチンへ入り、ポットでお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。 そうしながら、窓硝子の向こうの背中に心の中で語りかける。 ねえ、あなた、覚えてる? この部屋へ通い始めたころのあなたは、必ず携帯電話の電源を切ってからチャイムを鳴らしていた。 それなのに、いつしか、あなたの携帯電話はメールの受信通知音を鳴らすようになり、いつの間にか着信音さえ憚らずに鳴らすようになった。 それでも電話をとることはなかったのに、最近は当たり前のように通話ボタンを押すようになった。 ねえ、それで、もうしばらくしたら、電話をするときにベランダに出ることさえしなくなるんでしょう。 そして、ここへ来ることもなくなるんでしょう。 奥さんのぱんぱんに膨れきった皹だらけのお腹から、猿みたいな皺くちゃの赤ん坊が飛び出してくる頃には。
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