ある日の山田苑

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「もう来ないでくださいって言ったでしょ」  現れたのは、二十代半ばの若い女性だった。てっきり定年後の老夫婦の道楽だと思っていた。しかし、それにしても、 「……小さい」  思っていることが声に出てしまった。彼女の身長は百五十センチに満たないだろう。  掛川さんといきなり言い合いをしていた彼女は、キッと僕を睨んだ。 「誰ですかこの人」 「後輩の幸太」  掛川さんが言った。どうも、と言いながら僕は小さく会釈した。 「幸太、初対面でそれはいくらなんでもかわいそうだろ。こいつ結構気にしてんのに」  大変失礼なことを言ってしまった。女性は、男性ほどは自身の背丈を気にしないものだと思っていた。 「三回に一回くらいめっちゃかわいいんだけど、三回に百回くらい貧乳だからな」 「うっさい! てかゆいさんのが胸ないでしょー」 「無念。胸だけに」  うん。どうやら盛大に勘違いされたみたいだ。  彼女は、山田恵子というらしい。恵子ちゃんは、まん丸の目にぷるぷるの唇、ボブのよく似合うかわいらしい子だった。掛川さん曰く、三回に一回しかかわいくないとのことだが、そんなレベルではないことは断言できる。
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