第1章 異世界に降り立った神様。

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地平線の彼方まで広がっているのではないか。 そう感じずにはいられない程広大な平原に、ポツンと佇む小さな農村。 その一角に、今にも崩れそうな牛舎があった。 太陽が真上から差し込み一面が光を浴びて質素な輝きを見せているにも関わらず、その輝きを凌駕する眩い閃光が牛舎の壁の隙間から漏れ出る。 一瞬見せた光は数瞬の後収束しやがて消失する。平穏で静かな農村へと佇まいを直すが、気づいた村民達は何事かと牛舎へと詰め寄る。 まさか魔物が。という焦燥感に恐慌状態に陥りながら、農具を携え牛舎へと雪崩れ込む。 一見何も無かったようだが、息を呑む村民達の緊張感とは裏腹に牛舎の奥から間の抜けた声が聞こえる。 「ふぃー。異常ナシ! うん、なんとか成功かな?」 「お、おい、今声が…」 「牛が…、牛が言葉を喋っただ…」 「馬鹿。そんなわけあるかい」 相手が言葉の通じる存在だろうと安堵した村民達は、口々に状況を確認する。 先程雪崩れ込んできた勢いはどこへやら、恐る恐る声を発した正体を探るべく進む。 「おりょ。ここの人達かね? いやすまない。藁が気持ちよかったので此処で一眠りしてしまったよ。」 牛舎の奥には藁の小山があり、その頂点には”美しい少女”が澄ました顔で謝る。 村民達はというと、開いた口が塞がらなくなった。 早朝の段階で見回りした時には居なかったし、明かに先程の閃光の原因は目の前の人物だというのに、言及することも無く、ただただ呆然とした。 それらがどうでも良くなる程に、目の前の少女が美しかった。 腰まで揺蕩う銀色の髪は絹糸のような繊細さと銀細工のような輝きを持ち、麻布の中央に穴を開けて頭に通しただけの服から伸びる四肢は、透き通るような白さを持ち細い。頬と唇が健康的な紅色を帯び、宝石な様な真紅の双眸が見るものを魅了する。 まだ成人も迎えていないだろうあどけなさの残る顔立ちも相まってか、村民達の眼には遥か高みの神秘的な存在に見えた。 「女神様が降臨なされた…」「女神様だ…」「おら、生きてて良かっただ」 感極まった村民達は、開いた口から言葉が漏れ出る。中には、感涙に目尻を指ですくい上げるもの。伏して崇め奉るものなど。牛舎の藁を囲んで異様な光景を生み出していた。 「ふふふ、苦しゅうない。苦しゅうないぞ」 小山の頂点で、踏ん反り返り豊かではない胸を張って笑顔でその場を制したのは、言葉遣いに違和感のある少女だった。
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