由利は思う

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実を言うと、その日のことはよく覚えていない。ただし、悪くない日だった。 溜息の止まらない31回目の誕生日に嫌気がさしてMATCH+に登録した。出会い系サイトに登録するということに対する恥じらいは、今年の天野由利からは消えていたようだ。 職業や年齢の他にバストやヒップなどまで登録するフォームがあることに一縷の不信を抱きながらも、真面目である由利は全て埋めた。身長163センチ、体重49キロ、好きな食べ物は紫蘇、嫌いな食べ物はチョコレート。紫蘇はお寿司が好きだから、チョコはバレンタインが面倒だからで特に意味はない。 日常に溶け込みすぎた、自身への諦めを終わらせたかった。帰り道にみるカップルを妬ましく見る自分から変わることが出来るかもしれない。仕事でたまった愚痴を掲示板に吐き出す毎日が変わるかもしれない。缶ビールとスマートフォンを両手に携えながら、韓国ドラマを見る毎日から変わることが出来るかもしれない。 いつもと同じ場所で、いつもと同じ時間に起きる朝に違和感がある。違和感というよりは不快感と言ったほうが近いことにボーっとした頭で考える。横に寝ているクマのような男のせいであることは間違いない。アルコールが残る頭部をフルに活用して記憶を取り戻していく。この名前も分からないクマと同衾したのも、ほんの5時間前だ。ピロートークで「変わりたいと思う気持ちがある限り生物は生きていくことが出来る」とボソボソ言っていたのを覚えている。
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