80人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬間、春一は渾身の意思の力で鈴音から視線を引き剥がすと、
「夏樹、てめぇっ!」
まるで爆炎でも吐きそうな怒声をあげて、ダイニングに乗り込んでいく。
「お前、鈴音になんて格好させて――」
血管が切れるんじゃないかと思うほどブチギレて、弟たち全員を殴り飛ばす気概で向かったのに、
「――!」
ひと目見た瞬間に毒気を抜かれた。
「……は?」
そこにいたのは、ロングコートのようなジャケットに、ベストにズボン。バカみたいに大きな蝶ネクタイを胸元に締めて、シルクハットを頭に乗せた夏樹。
全身縞模様の、コメディに出てくる囚人服みたいな格好で、頭に猫耳のカチューシャをつけて頬にヒゲを描いた秋哉。
それから、あれは誰だ?
背中まである金髪。薄い水色のワンピースに白いエプロンドレスを身につけた美少女。ぶすっと不機嫌にふてくされてはいるが、あれは、
「……冬依か?」
「他に誰がいるのさ」
声だけは、ちゃんと冬依のままで返事が返ってきた。
春一は、
「なんでお前、女装してるんだよ」
もともと女顔だが、まさか女装癖があるとは思わなかった。
すると冬依は、
「これは女装じゃなくてコスプレ。鈴ちゃんがアリスは絶対ボクだって言うからさ」
「コスプレぇ!?」
弟たちは、春一のこんな間の抜けた声を聞くのは初めてだ。
思わず、ぶっと吹き出した夏樹が、
「そうそう。ただいま『気違いのお茶会』の真っ最中さ、おかえり春」
やっと、春一を迎えてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!