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もちろん、3年生が秋哉に因縁つけてくるなんて話、嘘である。
今日は、世の中の男どもが、女の子からチョコレートを貰おうと浮き足立つバレンタインデー。
テッペーの前で、この机に突っ伏している来生秋哉は、通常なら女の子にモテてモテて困るぐらいの整った顔をしている。
俗にいう、イケメンだ。
だが秋哉は、どちらかというと女よりも食欲、女よりもケンカというタイプで、恋愛に関して積極的に興味を持つ方ではなく、彼女という存在にも縁がない。
そしてこの『縁がない』というところを、テッペーはいたく気に入っていて――、
だから今日のこの日だけは、
「チョコレートと雰囲気に酔っぱらって、変な女にたぶらかされたら困る」
というヘリクツで、テッペーは鉄壁のバリケードを、秋哉の周りに張り巡らせた。
いわく、
「受験のストレスを発散させようと、3年が秋哉をつけ狙っている」
いわく、
「秋哉を倒せば、この辺り最強なんて名声が手に入るという噂がある」
ケンカというトラブルを起こせば、秋哉が所属しているサッカー部全体にも迷惑がかかるし、それはマズいだろうと、
「いいか、秋。今日の呼び出しには、最初っから全力のガンで応えてやれ。それだけで無用な争いは避けられる」
テッペーの忠告を、秋哉は律儀に守っている。
呼び出そうとする相手を、片っ端から睨み付けているのだ。
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