バレンタイン編

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テッペーが言うように、秋哉は怒ると、もともと整った顔に妙な迫力が増す。 生来の美貌に色気を纏うというか、男のテッペーでも一瞬ドキリとさせられるほどの妖艶さが加わるのだ。 それで一回、ホストの集団に襲われかけるという前科まである。 これは来生家全体の血筋らしくて、他の兄弟たちもすごいらしい。 秋哉の幼馴染、小中学校が一緒だった三嶋カズエに言わせると、 「弟は地上に降りてきた天使で、お兄さんは人を虜にする悪魔よ」 だそうだ。 なんでも中学時代、秋哉の授業参観に訪れた秋哉の兄をめぐって、 『担任教師も巻き込んで、母親たちの血で血を洗う争いが繰り広げられた』 なんて噂まである。 兄弟もそんなだが、肝心の秋哉も、 「アキの顔は、こうやって、ずーっと眺めてても飽きないもんなぁ」 テッペーは椅子に座って、机に突っ伏す秋哉のつむじを見下ろしながら、うっとりと呟く。 腕を伸ばして、雨が降るとクセが強まる猫っ毛に指を絡ませた。
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