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やがて、呼吸が穏やかになってきた頃を見計らって、そっと立ち上がる。最後にその寝顔を盗み見て、目蓋に焼き付けようとして……
いや、無理だな。こんなの、記憶じゃ実物に到底かなわない。
あきらめて立ち去ろうとしたオレの背中に、微かな声が届いた。
「またね」
首だけで振り返って、オレも彼女の思いに応える。
「あぁ、またな」
川沿いの桜並木を、テクテクと歩く。深夜の街灯に浮かぶ葉桜は、昼間よりもなんだか透き通って見えた。
原チャリに跨ったスーツ姿のオジサンが、オレをゆったりと追い越していく。
……あ、しまった。バイク、明日取りに行かないと。
(了)
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