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「ね、私がこの作家好きだって知ってて、用意してくれてたんでしょ?」
「だから、違うって。職場にたまたま置いてあったから……」
「ふーん。職場にたまたまねぇ。良く出来た話。しかも、二枚? ね、ホントは私と行きたかったんでしょ?」
「ウザいわー その自信過剰なとこ」
「ま、これくらいにしといてあげる。ほら、行こ!」
美術館のエントランスを小走りで通り抜けた小柄な後姿は、そのままさっさと中へ消えて行った。
おい、待てよ。なぜかオレまで早足で追い掛ける。ってか、なんでオレが急がなくちゃならないんだ。
館内でも彼女は、ずっとはしゃぎっぱなしだった。
オレにはいまいちピンとこない展示だったけど…… 無料で手に入れたチケットで、これだけ嬉しそうにしてくれたら十二分に元は取れただろう。
「あ、ほら、あれ見て! 前から見たかったんだ! 本物だよ、本物!」
「おい、薄暗いんだから走るなって。もっと年齢に相応しい落ち着きを……」
順路を示す矢印なんかまるで無視して、展示スペースを縦横無尽に巡る彼女。
迷子になるからと仕方なく繋いだ手に引かれるまま、曲がり角の向こうの空間へ足を踏み入れ……
あ、マズい。
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