午後 1時41分

4/4

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「あれ…… 先輩?」  そこには見知った顔があった。職場の後輩、仲良し女性社員の三人組。  しかも、そのうち一人はオレがOJTで指導係だった若手ホープ。過去には……そういう関係だったこともある。  彼女達の視線がオレ、アイツ、そして二人の手に移っていく。もちろん、離すタイミングを逃したそれは、まだ繋がったたままで。  まぁ、そりゃそーだよな。職場に置いてあったチケットで、今日は休日だ。こーゆーこともあるよね。うんうん。誰か、助けて。 「あの…… こんにちは、先輩」 「あ、あぁ、こんにちはです」 「ね、なんでデスマス調なの? 明らかに私達より若いよ、彼女達」 「いや、ちょっと黙ってて」  一瞬、唇を奇妙な形に歪めてから、とりあえず沈黙する彼女。  うん、静かだ。確かに黙ってとは言ったけど、全員黙れとは言ってない。誰か、喋ろうよ。  微妙な空気に耐え兼ねたオレが口を開こうとした瞬間、すぐ横から予想外に澄んだ声が響いた。  こんな凛とした話し方が出来るなんて、ちょっと驚きだ。普段は間延びしてて気怠げな喋り方なのに。 「えっと、同じ職場の方々ですよね? 彼がいつもお世話になってます」  そう、それはまさに社会人の話し方だった。  普段から姿勢が良いと思ってたけど、そこに接客の現場で身に付けた洗練された所作が上乗せされて。  深過ぎず、かと言って浅過ぎもしない見事な角度のお辞儀と、それに完璧な笑顔が続く。  発言内容は少しズレていたが、オレを含めてその場の全員が突っ込むことすら忘れて、しばらく彼女に見惚れてしまっていた。  美人ってズルいよな。  その日、何度目かのオレの呟きは、展示スペースの薄暗い空間に溜息と一緒に溶けていった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加