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「あれ…… 先輩?」
そこには見知った顔があった。職場の後輩、仲良し女性社員の三人組。
しかも、そのうち一人はオレがOJTで指導係だった若手ホープ。過去には……そういう関係だったこともある。
彼女達の視線がオレ、アイツ、そして二人の手に移っていく。もちろん、離すタイミングを逃したそれは、まだ繋がったたままで。
まぁ、そりゃそーだよな。職場に置いてあったチケットで、今日は休日だ。こーゆーこともあるよね。うんうん。誰か、助けて。
「あの…… こんにちは、先輩」
「あ、あぁ、こんにちはです」
「ね、なんでデスマス調なの? 明らかに私達より若いよ、彼女達」
「いや、ちょっと黙ってて」
一瞬、唇を奇妙な形に歪めてから、とりあえず沈黙する彼女。
うん、静かだ。確かに黙ってとは言ったけど、全員黙れとは言ってない。誰か、喋ろうよ。
微妙な空気に耐え兼ねたオレが口を開こうとした瞬間、すぐ横から予想外に澄んだ声が響いた。
こんな凛とした話し方が出来るなんて、ちょっと驚きだ。普段は間延びしてて気怠げな喋り方なのに。
「えっと、同じ職場の方々ですよね? 彼がいつもお世話になってます」
そう、それはまさに社会人の話し方だった。
普段から姿勢が良いと思ってたけど、そこに接客の現場で身に付けた洗練された所作が上乗せされて。
深過ぎず、かと言って浅過ぎもしない見事な角度のお辞儀と、それに完璧な笑顔が続く。
発言内容は少しズレていたが、オレを含めてその場の全員が突っ込むことすら忘れて、しばらく彼女に見惚れてしまっていた。
美人ってズルいよな。
その日、何度目かのオレの呟きは、展示スペースの薄暗い空間に溜息と一緒に溶けていった。
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