午後 6時57分

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 ゴトン、と音を立ててテーブルに置かれるビールジョッキ。 「なんで、そう思ったの?」 「は? なんとなくだよ、なんとなく」 「あの人は全然気付いてくれなかったのに。アンタはすぐに気付く」  彼女の手がスッとおしぼりに伸びて、それを目元に近付ける。え……なんかいま、目尻に微かに光る物が……  って思った瞬間、こっちに飛んでくるおしぼり! 顔面にクリーンヒット。  ヤバい。レモンの香り、半端なく酸っぱい。 「ちょっ、物投げる癖、いい加減直せよ」 「別れたの」 「……はい?」 「だから。別れたの、付き合ってた人と。ついこの前!」 「あぁ、それで…… ってか、今度は本気でイイ男だって、オレに散々ノロけてたのに」 「うるさい。飲め」 「ちょ…… 泣くなよ」 「泣いてない! 泣き上戸なの!」 「いや、結果的に同じだろ、それ」 「うーるーさーいー!」  掘り炬燵の下で、彼女の小さな足がオレの脛をボカボカ蹴飛ばす。  痛い。フツーに痛いから。手加減しろよ。あと、周囲の席からの生暖かい視線もグサグサ刺さってる。 「……グスッ。泣かされた」 「いや、泣かせてないから」 「うるさい。泣かせた責任取れ」 「さっきは泣いてないって言ってただろ」 「アンタがハッキリしないせいで遠回りしてんだからね……」 「は? なんて? よく聞こえない」 「とにかく! せーきーにーんー! 責任取ってよ、男でしょー!」  もう一本のおしぼりが飛来したけど、今度のは難なく受け止めた。いま何か聞こえた様な……  ってか、コレ、オレのおしぼりだろ。あと、周囲からの視線、確実に誤解してる。違う、違うんだ。完全に冤罪だから。  何もしてないのに、物凄く損した気分だ。
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