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早朝の高速道路は車の姿もまばらで、いつもは淀んでいる都市部の空気もこの時間だけは肺に優しい。
アクセルを捻ると足下の機関が甲高く鳴いて、タコメーターの針がスルスルと上がっていく。
ウィンカーを出して後方を確認すると、身体を右に振って追い越し車線に飛び出した。
慣れ親しんだオフィスビル、地下駐車場のいつもの場所にバイクを停めてエンジンを切る。ヘルメットを脱いで通用口へ。
カードリーダーにIDをかざして通り抜け、エントランスホールを横切る。
ちらりと壁面に視線を走らせると、長大なサイズの抽象画が目に入った。幅3メートル近い横長のキャンパスに踊る、深い青を基調とした幾何学的なパターン。
ホールに射し込む朝日を受けて鈍く輝くそれは、滝壺の底にたゆたう古代の大型魚を連想させる。
その方面に疎いオレには聞いたこともない画家の作品だったが、この絵はなんとなく気に入っていて、ここを通るたびについ視線を向けてしまう。
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