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エレベータホールに立って、上階行きのボタンを押す。通常は六台のエレベータが稼働しているが、早朝のこの時間帯は二台だけ。
少し待ち時間があった。
暫時、目蓋を閉じて今日のスケジュールを再確認する。
午後からの会議には来期予算策定の為に厄介な議案が控えていて、長引きそうだ。午前中にいくつタスクをさばけるかが勝負だな……
32階でエレベータを降りて、長い廊下を進む。
出退勤管理のカードリーダーにIDをかざした時に、小さなサイドテーブルに目が留まった。普段、そこにはクライアントからの菓子折りや、従業員が休暇中に買ってきた土産物が置かれていて、誰でも自由に取って良いことになっている。
今朝はそこに縦長の紙片が、輪ゴムで無造作に束ねられて置かれていた。手に取ってみると、見覚えのある美術館で開催中の特別展示の優待チケット。
そういえば、アイツが好きだったな、この美術館……
ふと古い友人の顔が浮かんだところに、電話の呼び出し音が鳴る。
視線を向けると、自分が所属している部のビジネスフォンだった。誰だよ、こんな朝早くから……
指先で二枚数えてスーツのポケットに押し込むと、オレは自席へと足早に近寄っていった。
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