午前 9時26分

3/4

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 思わず、深い溜息が漏れた。  スピーカーの向こうから雑踏のざわめきと、彼女のクスクス笑う声が伝わってくる。 「なぁ、昨日さ、仕事遅かったんだよ」 「それはお疲れさま。何分で来れる?」 「相変わらず人の話聞かないな…… シャワー浴びていい?」 「ダメ。すぐ来て」 「寝癖、凄いんだけど」 「んー 流行の無造作ヘア?」 「そんなレベルじゃないって。オレの髪質、知ってるくせに」 「はぁ、仕方ないな。三十分あげるよ」  なにが「仕方ない」だよ。オレの至福の休日をどうしてくれるんだ……  と胸中で毒づいてみるけど、我ながら説得力に欠ける。久し振りに耳にする彼女の声のせいで意識はすっかり覚醒して、むしろ浮足立っていることを自覚。  ちょっと、いや、かなり悔しい。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加