第六章 捻じれた糸

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 ソファーから立ち上がり、キッチンへ行く。何を取るわけでもなく冷蔵庫を開けてまたソファーへ戻る。コントローラーを握ったかと思うと、投げ出してまた立ち上がる。  ここ数時間、桜は落ち着きなくそわそわとしていた。  テレビ画面に目をやるものの、特に何か目的があるわけでもなくただ見ているだけだ。 「はぁ……」  今日何度目だろうか、大きなため息を一つ吐いてまた画面を見つめる。持っていると言うよりは、ただ手のひらに置いているだけの状態のコントローラーは全く意味を成していない。睨みつけるように見ていた画面からすっと視線を外すと、ガチャっと少し乱暴な音を立ててガラスのテーブルに投げ出した。  ポンと機械音が鳴ってチャットが入ってくる。悠太からだ。 『あのさ、やっぱり辞めたほうがいいかなって思って』  突然の、主語の無いセリフに桜の頭の中にハテナマークが浮かぶ。 『何を?』 『この、俺らの関係』  すっと血の気が引くような感覚を覚えた。心臓まで止まってしまったのかと思うほどの無音だった。本当にほんの一瞬。すべての音が聞こえなかったのだ。  そして堰き止められていたものが一気に流れ出すようにどくどくと心臓が鼓を打つ。うまく息が出来なくて口が酸素を求めて呼吸しているように動く。 『いきなり何のつもりか知らないけど、私は何の覚悟もなくこんな関係になったわけじゃない』  平気を装って、強く出てしまう。弱い部分を見せたくないと無理して平気な振りをする桜の悪い癖だ。可愛げのない素直になれない、桜自信が自分の中で一番嫌いな部分でもある。 『そっか。わかった。ごめんね、もうこの話はしない』  心の傷がまた広がる。ちくちくと刺していたささくれのようなものは、少しづつ形を変えより痛みを与えるものへと変化していく。  人のことよりも自分の事しか考えていない悠太に、桜は完全に振り回されてしまっている。言動に一喜一憂し、落ち着きなくそわそわして自分自身のことにすらまともに手がつか無い事も、傷ついている事が分かっているのに見て見ぬふりをして誤魔化している状態だと言う事もよく分かっているはずだった。  全てを呑み込むように何もなかった事に、もしくは全てが順調に進んでいると思い込みたかったからなのか、大きく大きく息を吐くと、「大丈夫」そう言い聞かせるように呟いた。
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