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カチカチと無機質な音が鳴る。
「ま、気分よくはないよね」
いつものお昼過ぎ、いつもの瑠美との会話、いつものテレビ画面。
「でもさ、なんだか中学生みたいじゃない?くだらないっていうか……」
その後が続かなかった。
いい大人になってゲームの中の人間関係に頭を悩ませているなんて、子供の頃の自分が見たらどう思うだろう。ふっとそんな自虐のような考えがよぎる。
「わかるけどさー。でもほら、ゲームでも操作してるのは生身の人間なんだし?それに実際に連絡取り合ってるって言うのはまた別の話だと思うけどな」
ううっと唸るような返事をすると、桜はコントローラーを持つ手を休めた。
カンッと音を立ててガラスの机に少し乱暴に置かれる。
「やっぱそう思う?」
深いため息を一つはく。
「え?古い友達だけどどうして?」
「んーなんか気になって」
「て言うか、誰と遊ぼうが俺の勝手でしょ?」
「それはそうだけど」
そうなんだけど、それとこれとは違うよねって本当は言いたかった。けれど、その言葉をぐっと呑み込んだ。
昨夜の会話が頭の中で繰り返される。言い合いをしたい訳ではなかった。一つを返せば十の言葉が返ってくる。言い返せば、お前が間違っていると言わんばかりの勢いで文句を言われる。
「桜?大丈夫?聞いてる?」
「へ、あ、ごめん」
少し間抜けな声で答える。完全に、心ここにあらずだった。
「いい人かなーって思ってたけど、ちょっと考えたほうがいいかもね」
桜の中で、好きと嫌いが激しく衝突しあう。嫌な部分を思い出しても完全に嫌いにもなれず、好きな部分を思い出せばより一層気持ちが膨れ上がる。心の中で天使と悪魔が戦っているような、結局はどっちかに軍配があがるのだろうが、今の時点で決定的な判断を下せるわけでもなく、もう少し様子を見ると言う事で相反する二つの気持ちは休戦状態となった。
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