第六章 捻じれた糸

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第六章 捻じれた糸

「どうして?」 「え?何がいけないの?」  ラインの画面を見て桜はため息を一つ吐いた。冷静に、冷静にと自分を必死で落ち着かせる。 「昔付き合ってた相手と未だに連絡取ってるっておかしいじゃん」 「今までどう言う別れ方してきたの?」  少し嘲笑うような、皮肉めいた悠太の顔がスマホの画面から見えるようだ。 「普通さ、相手が嫌がる事はしないでしょ」 「それってエゴじゃないの」  感情論は通用しない。一つずつ理論的に説明するしかないのだが、悠太は自分の中の正解が決して揺るがないタイプだ。相手を理解しようと言う気持ちが感じられない。  言い返したい言葉はたくさんあった、でも言い返さなかったのは喧嘩を大きくしたくなかったからだ。 「どういう別れ方をしてようが、次に付き合った相手が嫌な気持ちになるからでしょ」  精一杯の返答だ。冷静に、言葉を選んで、理解してもらえるように伝えた。  伝えたつもりだった。 「俺は別に気にしない」  一言だけ来たこの返事に、桜は返す言葉を無くしてしまった。  自分さえ良ければいいんだ……。そっと心の中で呟いてラインの画面を落とす。あれだけ盛り上がっていた数日前の自分は何だったのか。崖から突き落とされたような気分とはまさに今の状態だろう。  しかし悠太に悪気があった訳ではなく、これが悠太の普通の状態なのだ。その証拠に、数時間後に来たラインには、どこかで拾って来た美味しいお酒の情報サイトが送られて来ていた。  脱力とため息でぐにゃりと体がソファーに沈み込む。自分ばかりがいつも色々考えすぎて悩んでいるようで、不公平だと言わんばかりに歪めた顔でじっとスマホの画面を見つめた。  心の中に出来たささくれがチクチクと小さく痛みを与えてくる。じわりじわりと傷を広げ、治りきらないうちにまた新しい傷が出来る。  見て見ぬふりをして耐えているが、いつまでもつかなんて桜自信にもわからないし、そもそも治療方法が分からない。  悠太が思うようになってくれれば嬉しいのか、それとも自分がもっと寛大になればいいのか、強くなればいいのか。 「20代の頃の恋愛ってもっと簡単だったな」  スマホをクッションに投げ捨てると、小さく、吐き捨てるよう呟いた。
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