第1章 縺れた糸

2/3
前へ
/19ページ
次へ
 悲しいことも辛いことも楽しいことも嬉しいことも、恋は全てを生み出してくれる。  全力で愛して、全力で泣いて、いつか必ず幸せになれると信じて結ぶ赤い糸。  出会いと別れを繰り返し、もう嫌だと思いながらも、それでもまた誰かを好きになってまた結ばれる赤い糸。  全ての人達の小指に紡がれた赤い糸。  誰かの指に届いている赤い糸。  けれど、誰もが相手に辿り着けるわけではない。  光の筋のように真っすぐに伸びていればいいのにと思うけれど、大抵は複雑に絡まり合い、下手をすればぷつりと切ってしまう。  絡まった糸をほぐせず、間違った糸を手繰り寄せる。  するとそこには別れが生まれる。  今までどれだけの人たちが繰り返したのだろう。  切っては紡ぎ、切っては紡ぎ……。  本当に繋がれている相手に辿り着く作業を。  私の糸は、どこに繋がっているのだろう。  手繰り寄せている間に切ってしまったのだろうか。  それともまだ――    結婚をしたのは失敗だったと何度そう思ったことだろうか。  恋人同士のように、「別れましょうさようなら」で終われる関係ではない。夢のない言い方をすれば、国に守られた契約だ。  そう、婚姻届けは契約書なのだ。なのに、なぜ二度も契約をしてしまったのだろう。同じ過ちを繰り返すほど馬鹿だったのかと、今更ながら自分で自分を疑ってしまう。あまりに浅はかだったと。  いや、最初は信じていた。この人とならきっと素敵な人生が送れるんだ。  優しくて、しっかりしていて、自分にはもったいないくらいの人だと思っていた。  誰でも最初はそう思うはずだ。政略結婚のように当事者が望まない結婚でもない限り、お互いを信じて好きあって結婚するのだから。  けれど時は全てを変えていく。環境、性格、愛情さえもだ。  結婚して7年、桜の愛情はもうすっかり枯れてしまっていた。自分だけではない、相手の愛情もだ。  どうしてこうなったのだろう。どこで何を間違えてしまったのだろう。  今更修正したいとも思わないが、二人の糸はきっと元々繋がってはいなかったんだ。  ぐちゃぐちゃに絡まった細い糸を切らないように、無理やり手繰り寄せた相手だったんじゃないかと。  ああ、またやり直しだ。  ハサミでぷつりと切ってやろう。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加