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03
その夜、懐かしい夢を見た。
小学生の僕が、夜中に両親にバレないよう家を抜け出して近所の公園に向かう。当時の僕にとってその公園のジャングルジムの一番上に登って夜空を見上げるのが密かな楽しみだった。
公園に着き、ジャングルジムに目を向けるとあの人が僕に手を振っていた。
夜空に輝く星を彷彿とさせる金色の髪と泣きぼくろが印象的で、星座のことを聞くと決まって彼女は僕の頭を撫でながら優しく微笑んだ。横顔を見るたび「織姫が本当に実在したらこんな人なんだろうな」と思っていたのを覚えている。
僕に星と初恋を教えてくれた、大切な人。
僕はジャングルジムに登ってあの人の横に座る。夢だとわかっているのにあの人が隣にいると思うだけで鼓動が早くなる。
この夢をみる度に僕は彼女に想いを伝えようとする。けれど僕の言葉は彼女には届かない。僕が口を開く前にあの人が僕をそっと抱きしめるからだ。
そして彼女はあの日と同じように頬を涙に濡らし、声を震わせて、僕に言うのだ。
「ごめんなさい」
何かを祈るように。
何かを恐れるように。
何かを後悔するように。
彼女は僕に謝罪の言葉を囁くのだ。
「何であの日からいなくなってしまったの?」
彼女にそう問いかけた時に決まって僕は目を覚ます。
その夢を見た時は必ず目覚めが悪く、僕の手は涙で濡れている。
あの人が姿を消してから、僕はあの公園に近づくことはなくなった。きっとあのジャングルジムを見たら、あの人のことを思い出して泣いてしまうだろうから。
いつかまた、あの人に会える日は来るのだろうか?
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