1 日々

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04 どうやら昨日の夜中に雨が降ったらしく、家のドアを開けると雨が降った後の独特な匂いがした。通学路には所々に水たまりができていて道行く人はそれらを踏まないように下を向いて歩いている。その光景はまるでゾンビの行進だ。僕はイヤホンを耳につけ、好きなアーティストのアルバムを再生し、行進に参加するように歩き出した。 『・・・い・・・ケ・・・』 久しぶりにあの夢を見たせいか、昨日はあまり寝付けず少し眠い。 まだ僕は、あの人のことを忘れられていないのか。なんとも、情けない。 あの初恋以来、僕は恋をすることはなかった。思い出補正というか、僕にとっての理想の女性が曖昧な記憶の中のある人に小学生の頃から定着してしまったので、クラスの女子に可愛いと思ったり綺麗だなと思ったりすることはあれど好意を持つことはなかった。まぁ女性からも好意を抱かれたことはないので、だからなんだと言われてしまえばそれだけの話なのだが。 『ちょ・・・ケ・・・おは・・・』 イヤホンから流れてくる女性アーティストの透明感のある声を聞きながら考える、そういえば今日来るという転校生、どんな子なのだろうか。ヒナタ先生曰く美人らしいが、もしあの人がとんでもなく歪んだ女性の趣味だったらどうしよう。西郷隆盛みたいな女子が来たら僕はそっと目を伏せるぞ。 「ん?」 もしかして今誰かに話しかけられたのか? そう思ってイヤホンを取り後ろを振り向いた。 「お、やっと気づいた。無視すんなよ寂しいだろうが」 「・・・どちら様でしょうか」 「よし。今からお前のお母様にお前の性癖を教えてくる」 「あぁ!その茶髪のくせっ毛に黒縁メガネ!180cmの身長に小学校からやってるサッカーで出来上がったがっちりとした体格!僕の幼馴染の狩野衛二郎(カリノ エイジロウ)君じゃないか!」 「うむ、分かればよろしい」 そう言ってエイジは何事もなかったように僕の横に並んで歩き始める。 「ちょ、あんま隣歩かないでよ」 「なんでだよー。いいじゃんよー。泣くぞー」 「某アニメ映画の巨大な赤ん坊かお前は!大体、180cmの巨漢の本気泣きなんか誰も見たくない!」 「一部のニッチな層に受けるかもよ?」 「そんなコア過ぎる層は押し潰れてしまえ!」 「本当おれに対してだけ風当たり強いよなお前さん」 「エイジと歩くと僕がチビに見られるから嫌なんだよ!」
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