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それから二つの季節が過ぎた頃、不安が現実となった。
父上にこの秘密が知られてしまったのだ。
《王》と《生贄》の関係がばれればどちらも殺される、それはこの幼い子供もだ。
なんとしても伯父上と伯母上そして愛らしい従妹を守らなくてはならない…使命感に突き動かされた蘭堂は、抜け道と馬車を手配し三人を逃がそうと思った。
「失礼します!伯父上、伯母上、従妹ちゃん!城から逃げてくださいっ。僕が手引き致します」
ノックもせず入った、リストの旋律流れる伯父上の部屋。
奥へ進むと安楽椅子に腰かけた伯父上が伯母上を抱きしめていた…息はもうなかった。
傍らのテーブルには食べかけのチョコレート、飲みかけのワイングラスに入った血液、「蘭堂、王になどなってはいけないよ、《生贄》など持ってはいけないよ」という小さな手紙。
「そんな…」
絶句する彼の元へ何も知らない幼い従妹が近付いてきたので咄嗟にその亡骸を見せぬよう小さな体を抱きしめた。
「らんどー、お父様とお母様は?」
「お父様とお母様は眠っているよ」
「そお。ねえ、今日は何をして遊ぶの。あたし、またらんどーにお話を読んでもらいたいの」
そのまま彼女を抱きかかえ、歩き始める。
「どこにいくの?ひとりにしないで?一緒に来て、ねえ」
狼狽する彼女を強く強く抱きしめながら、誓いを立てた。
「ごめんね、君をひとりにする。けれど必ずまた迎えに来るよ」
「ほんとう?本当ね、らんどー。そうしたらあたしをらんどーの隣にずうっと置いてね。あたしね、らんどーが好き」
そして奏縁を呼んで「この子を人間の村、ルーチェに連れていって、なるべく人の好さそうな家に預けるんだ」と頼んだ。
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