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「名前を呼びたい、けれど君のことは従妹ちゃんとしか呼んでなかったから…」
「ルナでいいわよ、今はそうだから」
「ルナ」
「何かしら?」
「あれから百三十年程経った」
「そうね」
「けれども君はまだ…その、まだ」
「幼い?」
「いや」
「可愛い?」
「ええっと」
「若い?」
「うん、そう。まだ処女(おとめ)みたいな顔」
「…半永久的に生きる吸血鬼との血が混じっているせいかしら、あたしの時間は人よりも遅く流れているのよ。先の百年戦争の頃だってこの姿で生きていたわ」
「あの後君はどうしていたの?どう生きていたの?」
「…百三十年前、あたしはルーチェの養父母の元に預けられ、そこで育ったわ。
でもね、年相応に成長しないことを不審に思われて、誰かが私のこと魔女だと言って石を投げた。それは養父母に対しても同じだった、村中から意地悪をされたの。
大好きな、義父さん義母さんを傷つけるわけにはいかないから…ひとり、村を出てあらゆる地を歩いた。
そして、この間ブルート一族の王が変わると聞いてルーチェに帰ってきたのよ」
「どうして」
にいっと口角を上げて、蘭堂の頭に腕を回し、彼の顔に豊満な胸を近付け、膝の上に乗った。
「《生贄》になりたかったから」
「え」
「《生贄》になって、あたしにこんな運命を背負わせた吸血鬼なんて一族全てを殺してやろうと思った…とかいうのがセオリーかしら」
氷のように冷たい指が蘭堂の首に触れる、真っ赤な唇が耳元に近付いてふっと吐く息で、蘭堂は「ひいっ」と生娘のような声を上げてしまった。
「でもね、御免なさい、違うの」
「え?」
「また蘭堂に会いたかったのよ、それだけ。
だから《生贄》になりたかったの、そしたらなれたわ。願ってみるものね!」
「ど、どうして」
「もう、だって!貴方迎えに来るって言っておいて全然来ないんだもの、こっちから来てやったわ」
「ご、ごめんね、あれはその言葉のあやだったんだ。人として君は普通に生きてほしくって」
「あら、淑女にウソをついたのね!花を愛で、星占いを信じていそうな優しい顔して酷い男」
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