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上辺は「名誉なこと」だが、村人の娘は「自分が選ばれなければいいね」と話し、あえて化粧を落としてみすぼらしい格好にすっぴんで過ごしていた。
年頃の娘を持つ親は自分の娘が選ばれないようにと神に祈った。
そして迎えた《生贄》の発表の日。
「ルナ、ルナはいるか」
村の片隅にある化粧品の匂いと、女の甲高い声でむせ返る旅人を客とした貧相な歓楽街の建物に村長が入ってきた。
「あら、村長!ご無沙汰ね」
似たような髪、似たような化粧、似たような服装の女たちの中から手を上げ、立ち上がったのは藍色の髪を一つに結った女だった。
洗濯に洗濯を重ねたことが一目瞭然の穴が開いた下着姿で、口には色気の欠片も無いおつまみのイカが咥えられている。
「ルナ、光栄なことだ」
「あら、そう、光栄なことなのね。ふふん、オルアレンの乙女にでもなった気分だわ」
「分かるのか、私が何を言いたいのか」
「そりゃあね、ここのとこ街を歩くのはブスばかりだし、あたしが街を歩くと後ろ指を指されたもの“《生贄》なんかは孤児がなればいい、悲しむものなどいないんだがら“ってね」
「そうか。物分かりが良くて助かる」
すると大きさが左右非対称の見た目をしたふくよかな女が、飾られていない右目に筆先を這わせながら
「はん!孤児で売春婦なら一番村人間に波風を立てないとでも言うのかい!なめんなよ、ルナを吸血鬼のエサになんかさせないよっ」
とようやく対象な大きさと美しさになった目玉で村長を睨んだ。
村長はびくりと老いた体を震わせた。
すると加勢だと言わんばかりに部屋にいた女のそれぞれの口から汚らわしい罵倒の言葉が飛び交う。
彼女がいかにこの空間で愛されているのかが分かった。
「未練たらしいわねえ」
だが、それを一蹴したのは《生贄》になる張本人だった。
「いいのよ。ここでの生活なんて退屈だったし。王様の相手をするのもこのクソ長い人生の退屈しのぎくらいになるはずよ」
「でも、王様が酷いやつだったらどうするんだい、それに百年もの間血を吸われるだけの人生なんて、百年経ってやっとここに戻ってきてもあんたはおばあちゃんで私らはいないんだよ」
「そうしたら舌でも噛んで死んでやるだけよ」
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