血液ショコラと臆病キング

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 「王様になんてなりたくない」 窓から見える村の景色を見つめながら、瑠璃色の髪の少年・蘭堂(らんどう)はマグカップの中のココアをちびちびと飲む。超が付くほどの猫舌なのだ。 するとコンコンと戸を叩く音がし、その音に驚いた彼はマグカップからココアを零し「熱っ」衣服に染みを作った。 もしノックの主が父上だったら、怒られる。 子供ならば、平民ならばまだしも、吸血鬼の名門のグルート一族の跡継ぎで、 数日後には王の座を引き継ぐ自分が食事に血液ではなく、甘い飲み物の代名詞でもあるココアを、それもマグカップで飲んでいたのがバレたら…。 ――平民の吸血鬼は首筋から直接血を飲むがあんなのは野蛮だ、美しくない。王族の我々は血をワイングラスに入れて、飲むのだ。それが美しい それが口癖の父上に、血が苦手な蘭堂はいつも叱られる。 ――血が苦手だと?次その言葉を口にしてみろ、それはこの家の人間であることを放棄し、死を願っている意思だとして受け取るからな。 それからココアなどという甘ったるいものを口にするのもやめろ! ブルート一族の恥さらしめ そうはいっても血は生臭い、どれだけ美しい女の血であろうとも、血であるというだけで蘭堂の体は拒絶反応を示す。飲まず嫌いをしているわけでは断じて無いのだ。 「私です、蘭堂様」 「奏縁か…なんだ、驚いて損した。父上かと」 入ってきたのは長年この家に仕える執事の奏縁だった。 老紳士という単語が良く似合う白い髭を蓄え、常に笑っているような顔をしている彼は「お父上様から差し入れです」とワイングラスをお盆に乗せている。 「十歳の麗しい幼女の血、だと」 「父上の幼い女の血好きは気味が悪い」 「しかし老婆の血よりも、美味でしょう」 「僕は血が嫌いなんだ。美味しいなんて思ったことない。一族に、正室である母上から生まれたというのに、この味覚は狂っている、味覚障害だと異母兄弟から馬鹿にされるのは日常茶飯事だ」 涙目になりながら体育座りをする姿は、とても小さく弱弱しい。 「…では、私めが?」 頷くと老執事ははごくりとその血を飲み干した。 「王になんかなりたくない」 「あまり大きい声でそのようなこと」 「僕に統率力が無いのは奏縁が一番知っているだろう」 「それは、もう。蘭堂さまは気が弱く、人見知りで、年齢不相応に幼く、臆病者です」
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