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「はっきり言うなよ。真実でも傷つく」
「申し訳ありません」
蘭堂はココアを一気飲みした、甘い。
甘いは旨い、だ。
血液は苦い、苦いは不味い。
吸血鬼といえども一族によってその味覚は異なる。血だけしか飲まない一族や、血が主食で副菜に人間と同じように野菜や魚を食べる一族もいる。
ブルート一族は血だけを食し、甘味を嫌う一族であった。それなのに蘭堂は血が苦手で、甘味…特にチョコレートを好んでいた。
「やだな…こんな一族に生まれなければ良かったよ。愛玩動物にでも生まれて草を食べて可愛い飼い主に愛でられながら一生を全うしたかった」
王様になる責任感も重いけれど、《生贄》を用意されていることも憂鬱だった。
父上の側にいつもいた《生贄》のことを思い出す。
彼女は栗色の髪の目玉が大きく、年不相応な幼稚さを持つ人だった。
彼女は朝昼晩の三度の食事の際に父上の前に薄い肌着で呼ばれた、父上は彼女の首元にまず牙を立て、そしてその傷口にワイングラスを傾けて溢れた血を美味そうに飲んでいた。
父上は彼女に対していつも冷たかった、それはそのはずだ、だって彼女は《食材》なのだから。
けれども、人の形をしているものを《食材》のように、《もの》のように扱う冷ややかな心を蘭堂は持ち合わせていなかった。
「けれども、良いと思います。蘭堂さまのその従来の王には無い性格は。
恐怖で村人らを支配するのではなく、人望によって支えられる王になればいいのです」
「伯父上のこと、忘れたのか」
こほん、という咳払い、冷静な顔に動揺が見え隠れした。
「綺静様はとても優しいお方でした…しかし」
「しかし?」
「優しすぎる方でもありました」
「僕と似ているだろう」
「ええ、とても」
「僕は父上のように《生贄》をただの《食材》とは思えないんだ。だって彼女は人の姿をしていて、人としての意思も持っている。だから、だから…伯父上のような罪を繰り返すのだろうか、僕も」
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