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―――新たな王の就任の日。
華やかな式典の後、蘭堂は自室でその時を待っていた。
《生贄》が来たら、何と言おう。
血が苦手なことを話してもいいだろうか。それは吸血鬼としての威厳が無いだろうか。
どんな《生贄》が来るのだろうか、愛らしい人だろうか、美しい人だろうか。
どのように扱えばよいのだろうか。冷たくするべきなのか…だって優しくしたら、伯父上と同じ過ちを繰り返してしまう。でも、冷たく接する自信が無い。
悩みに悩みの上塗りを重ねているうちにいつものように戸を叩く音がした。
「蘭堂さま」
落ち着き払った奏縁の声。息を飲んだ。そして開く戸。想像していた《生贄》とはだいぶ、違った。
「良いドレスね、こんなものを着せてもらえるんならば《生贄》ってのもなかなか悪くないわ」
ひらひらとした生地に、品の無い位にぎんぎんと光輝くドレス、派手な化粧の女は、舞うように腰をしゃなりしゃなりと振りながら室内に入ってきた。
「王様ね、貴方?」
綺麗な女だった。
「よく一目でお分かりに…いや、分かったな」
「みすぼらしい格好をしたシャルル七世が一般人に溶け込もうとも、目玉と心で、彼から放たれるものを感じ取れるみたいでしょう」
「それ、何の話?」
「あら、呆れるほど長い時間を生きる吸血鬼だというのに史学には疎いのね!貴方は史学に長けていると思ったけれど!」
見目麗しいけれども口ぶりは大分荒々しい、彼女。
「…改めて第百七代、ブルート家当主の蘭堂ブルートだ」
父上の真似をして胸を反らして言う。
この言葉を言うだけで、自分に王としての器が無い、ただの気弱な少年であることを隠せる。
「あたしはルナよ、よろしくね、可愛い王様」
大半の人間は皆蘭堂が名乗ればひれ伏す、けれども彼女は恐れることなくにこりと笑った。
「ルナ…さん」
「ルナでいいわ、だって、食べ物にパンさん、ビーフさんとは言わないじゃない」
「あの、僕は」
「あら、凄い、ここからだと村が一望できるのね。あたしが居た店はあの辺かしら」
肝心なことを言い出すことが出来ぬまま、どのような態度で今後接するかという方針が練れぬまま、彼女に振り回されて最初の面会の時は終わった。
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