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『桜梨…お前…こんな朝早くに何処にいく?』
「っ…」
背後から声が聞こえ、桜梨は思わず立ち止まる。
先程まで、目の前の蟻の行列を数えていた苺は桜梨に気付くと声を掛けた。
『野暮な事を聞くな。桜梨が何処に行こうと関係無いだろう』
そこへ、反対側から苺を制する声が聞こえる。
白髪で腰まである長い髪を一つに結わえ、藍色の学ランを着た男子高校生。
辻岡杏(18)。
苺と幼なじみで、やはり近所に住んでいた高校生。
杏も半透明で透けており、隣には真新しい花が備えられていた。
苺と張り合うように、桜梨を溺愛しており主に甘口で甘やかせていた。
杏もまた、苺と同じ日に交通事故で他界している。
信号無視で突っ込んできたトラックに、買い物帰りの二人は撥ね飛ばされたのだ。
二人共、遺体は生前の美しさを保てない程無惨で…
家族や近親者のみ、密葬で済まされた。
『杏、てめぇこそ…甘やかすのも程々にしやがれ。俺達が死んでから…こいつは…コンビニ弁当ばっかりしか食ってねぇんだぞ?』
『今は成長期で大事な身体作りをしなきゃならねぇだろうが。身体壊してからじゃ遅いんだよ』
苺は向かい側に居る杏に強い口調で言い放つ。
『ふん。今の俺達はただの地縛霊に過ぎない。故に、俺や貴様には桜梨の私生活を正す権利も無い』
『今を生きている桜梨の自由にさせてやる事こそが俺達のやるべき事じゃないか?』
無表情で杏は苺に言い返す。
「……」
神社の息子だった桜梨は、霊感が弱いので普段は二人の声しか聞こえないが…
雨上がりの日は、桜梨の霊感も強くなり二人の姿が見えるのだ。
「僕の事は…放っておいて下さいっ!!死んだ貴方達には関係ないっ!!」
桜梨は堪えきれず、声を張り上げた。
『っ!?』
『…』
桜梨の言葉に、苺と杏はびっくりして目を丸くする。
「貴方達が死んだのも…僕の夕食を作る為にスーパーに行った帰り道です…」
「僕なんかに関わらなければ…貴方達は死なずに済んだ…恨むなら僕を恨めばいいっ!!」
「もう…僕なんか放っておいて下さいっ!!」
タッタッタッ
桜梨は吐き捨てるように言い放つと、走り去って行く。
『待てっ!!桜梨っ!!』
『桜梨っ!!』
苺と杏は追い掛けようとするが、地縛霊として縛られている為…
足枷が付いており、動こうにも動けない。
『くそがっ!!』
『桜梨…』
苺は悔しがり、杏は泣きそうな顔をした。
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