第1滅「犬猿は今も昔も」

3/3
前へ
/85ページ
次へ
「ひく…ひく…」 泣きじゃくりながら、コンビニを通り過ぎて桜梨はひたすら歩き… 街中を抜け、いつの間にか人通りの無い通りを歩いていた。 辺りには、閉店し寂れた廃墟の店舗が軒を連ねており… 無造作に雑草が伸びており、割れた窓や崩れた外壁が一層不気味さを煽る。 「っ…此処は…」 桜梨はやっと気付くと、目を周辺に配り立ち止まる。 …苺お兄さんが言ってた所だ…絶対に繁華街から奥には行っちゃ駄目だと… …確か…自殺したラーメン屋の店長が…悪霊になって引きずり込むから…危険だって… 思い出した桜梨は蒼白になり、慌て逃げようとするが… 『ひゃははは…客だ客…』 「!?」 声が聞こえ、桜梨は後ろに振り返る。 「っ!?」 桜梨の後ろに、赤黒い肌の白い割烹着を着た中年の男が立っていた。 半透明な男は、笑いながら包丁を手にしてる。 「うわああっ!!」 一目散に桜梨は逃げ出すが、男の悪霊は笑いながら追い掛けて行く。 同じ頃。 『桜梨、遅いな…』 膝を抱え、座り込んだ苺はポツリと言う。 『コンビニではないのは確かだ…家出したかも知れん』 落ち込んだ様子で杏は苺に答える。 『そっか…なんかさ…桜梨が俺達の事をそう思っていたのはショックだよな…』 『そうだな。俺達は…桜梨を弟のように思っている…だが…それと同じに…』 『泣き虫で、キチンだけど…優しいし…あの子は気付かないだけで…格好良いし…』 『好きなんだよな…本当に昔から…好きだから尽くしていたと言う意味もある』 苺と杏は、照れて顔を赤らめながら言い合う。 『アピールしていたけど、結局気付かなかったしね』 『あいつはホモではない。仕方無いだろう』 苦笑し苺が言うと、杏は困った顔をして頷く。 自分達より年下で泣き虫、自炊能力ゼロ。 それでも好きだから放って置けない。 つくづく馬鹿だと思うが、死んでも愛しい人を想う二人だった。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加