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「す、す……すき……だっ」
帰宅寸前、家の前で突然言われた台詞
玄関に手を伸ばし、鍵を開けるタイミング
聞こえた小さなその声は、弱々しくて震えていた
誰の言葉か確かめたくて、振り返ってみてもそこには誰もいなかった
視界に広がるのは、朝に見た時と空模様の違う見慣れた景色
「じゃ、またね」
「うん。また明日な」
そう言って男の友達とお別れした二つ前の交差点
そこから彼はついてきた
いつからだろう? と考えてみる
二つ前の交差点
そうであってそうではない
一ヶ月くらい前からだった
彼がついてくるようになったのは
怖かった
後ろに感じる人の気配
歩くスピードを変えても同じように変わり、一定の距離が保たれていた
気になって振り返ってみても怪しい人影は見当たらなかった
それでも、つけはじめてから声を掛けられたのは今日が初めてだった
だから私も勇気を出した
踵をかえし、気配の残る表札の前へと静かに向かう
「怖いからもうやめて!」
そう言って、彼を後ろから捕まえた
首をもたげてため息を吐いてた彼は、囗とも容易く捕まった
だから私は、そんな彼が聞き逃さない耳元で、一言を告げる
「一ヶ月前から気付いてたし……」
「え、嘘……」
ついさっきまで友達だったその彼は、私の友達ではなくなった
「……でね、さっきの。
わたしも、だよ」
こうした続きがあったからこそ。
※つきまとう行為は罪に問われる可能性があります。真似はしないでください。
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