七章 柔らかな鎖

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・ ルナは息を潜めながら深呼吸するとゆっくりと扉を閉めた。 廊下のロウソクの明かりがルナの小さな躰を巨人のように変化させ壁に映し出す。 一瞬、ヒィッと頬を牽き攣らせ我が身のその影に怯える自分を落ち着けながら、ルナは足早に玄関へと駆けて行った。 「よし…誰も居ないわね……」 執事のモーリスの姿を探りながら呟くと、ルナはもう一度辺りを見回しノブに手をかけた。 ガチャリと重い鉄の鍵が外れる音がする。 ルナは初めてこんな夜更けに館の外へ出たのだった。 開け放した扉が独りでにゆっくりと閉まる── 背中で重く静かな音がガチャ、と響くと途端にルナはハッと息を飲んでいた。 大きな扉の玄関口には明かりと言える物が見当たらない。 急に真っ暗な闇に置き去りにされ、小さな恐怖心がルナを蝕む。 館のところどころの窓から漏れる薄明かり。 そしてぼんやりと歪む月明かり。 玄関の先にある正門、その先は深い森が覆っている… “ここは魔物の棲む世界──” ルナはその事に身震いを返した。 「だ…大丈夫よ…っ…」 ゴクリと唾を飲み込むと同時にルナの要らぬ強がりがそんな言葉を吐かせる。
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