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「──っ!?…」
……ルナ?
ふぅー、とグレイが溜め息をつくのと同時だった。
バスタブのワイン色したお湯にグレイの漆黒の髪から落ちる雫がポチャリと水面を揺らしていた。
その水音に紛れ、微かだが確かに我がフィアンセの叫び声が脳裏に響いた。
なんだ今のは?
──っ…おかしい…気配がまったく読めないっ
何事かとルナの存在を探り意識を集中させる。だがルナの動きも思考さえも探ることができなかった。
グレイはバスタブから立ち上がると直ぐに黒いバスローブを身につけた。
「モーリス! ルナはどこだ!?」
「……? これは旦那様、…子供じゃないのだからお身体はちゃんと拭いてくださ…」
「そんな暇はない! ルナはどうした!? あいつの気配がひとつも読めないっ何故だ!?」
「そうは申しましても……」
居間でのんびりとお茶を飲んでいたモーリスは普段見られぬ、主人の取り乱し方に呆気にとられた表情を返し口を開いた。
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