七章 柔らかな鎖

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──生身の人間(ルナ)が封印を解いたと言うのか!? 苦味渋る表情。 焦りに瞳を曇らせ小さく舌打ちする主人をモーリスはちらりと横目にする。そして口を開いた。 「……旦那様…ルナ様は旦那様の婚約者。そして契約を交した方。本人は気付かぬとも、旦那様の魔力の影響を少なからず受けているとお考えになられた方が…」 「──…っ…」 「私だってその一人。旦那様と主従の契約を結んだからこそ、この老いぼれの死に損ないが旦那様に並ぶ魔力を持ち続けているのですから…旦那様はそれほどのお力を持っていることを自覚したほうが宜しいかと……」 モーリスは黙ったままのグレイを前にコホンと咳を払う。 「それより、ルナ様を早く捜しに行かなくては──…もうそろそろ双頭の凶暴な犬が狩りを始める刻に、あれに見つかってしまえばも…」 「──…!」 話続けるモーリスの前でバタンっと急に窓が開いた。 振り向くと隣にいた筈のグレイの姿が見当たらない。 なびくカーテンがふわりと風に泳ぐ。白髪の老人は目尻にふっと皺を寄せた。 両開きの窓が開かれた勢いで揺れ動いている。
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