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朝っぱらから小気味良く指を鳴らし、モーリスはテーブルに付いたルナの前に次々と料理を並べる。
「温かいスープに、焼きたてのパン! あ、ルナ様。温かい生レバーもご用意致しま…」
「要らない」
「………。コホッ…えー、…左様でございますか…」
ルナの即座の拒否に、モーリスは少し気を落とした表情を浮かべた。
出来たてのパンを千切りながら小さな唇に運ぶルナの頭に昨夜の宴の残像が蘇る。
これからもまた、あんなことを目にするのだろうか…
着飾った婦人の腰に手を回して抱き寄せルナを小バカにしたように笑う。
そんなグレイの姿が思い出された。
あの時に零れた涙は一体なんだったの……
その理由は自分でも掴めない。
ルナは小さく弱い溜め息を吐いた。
ここから、逃げ出したい…
諦めていたその思いが何時しかルナの中でまた芽生え始めていた。
「食べたらまた部屋に戻ってもいい?…」
「………? 今日はお庭の散歩はなさらないのですね?」
「うん……」
「かしこまりました。では、旦那様にもそのようにお伝え…」
「やめて!!」
「──!?」
ルナは手にしていたパンを握ったままテーブルを叩いて立ち上がった。
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