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「そんなことをあの人に言う必要ないでしょ!! なんでっ……いつもあの人に見張られ続けなきゃっ…」
幼い頬を涙が伝う。
悔しさが急に沸き上がり、ルナの胸を締め付けた。
餌だと侮辱され、ガキだと罵られ、婚約者だと言われながら凌辱される。
なにから何まで、全てを監視され続けたうえに、夕べ起きた出来事を頭で整理できないままルナは何かに追い込まれていた。
ただ、軋む胸の痛みは何を思ってなのかルナは自分でもわからなかったのだ。
興奮するルナに驚いていたモーリスだったが、彼は涙を流すルナにスッと近寄ると瞼に手をかざした。
その途端力尽きた様にルナの身体が床に崩れ落ちた。
「──ふう、旦那様も酷なことをなさるから…ルナ様もお気の毒に……」
モーリスは倒れたルナの頭を優しく撫でる。
そしてすぐ後ろを振り返り見上げた。
「後の責任はもちろん取って頂きますよ、旦那様」
「…言われなくともわかってる」
姿を現した主人に対して珍しく厭味な口調を含めジロリと視線を投げるモーリスに、グレイもふん、と鼻を鳴らしながら目を反らして返した。
グレイは床に倒れ込んだルナをそっと抱き上げる。
グレイに抱えられた勢いでルナの顔がコツンとグレイの胸に向き直る。覗けた幼い顔は少しやつれ悲壮感を漂わせていた。
モーリスは魔力を使わず自分の腕でルナを部屋に連れて行く主人の静かな後ろ姿を目で追いホッと息をついた。
コツコツと廊下を歩く音が響く中、グレイは無言で目を閉じるルナを見つめた。
壁に立てられたロウソクが風で微かに揺らいでいる。
ルナを見つめたままグレイは足を止めた。
意地を張らず素直になればいいものを……
「………」
無意識の小さな唇が微かに開き寝息を立てる。
先ほどのヒステリックな表情からは想像もつかぬ無邪気な寝顔。
グレイは思わず口端をふっと緩めた。
もっとも……心乱すお前も俺の楽しみのひとつだがな……
柔らかく緩んだグレイの唇がルナの淡いチェリー色の唇にそっと押し当てられた。
ロウソクに照らされた二人の影が重なりほのかに壁に浮かび上がる。
軽く吸い付く音が二、三度響くとグレイの足音はまたルナの部屋に向かっていた。
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