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2月14日それは一年の中でも特別な日だ。この日の為に男たちは長々と準備をし、決意を固めている。 俺だってこの日を迎えるために日々自分磨きをしてきた男の一人だ。 2月14日バレンタインデー。 この日は男たちの戦争が開始される日なのだ。 朝から緊張した面持ちで家を出る。家を出た瞬間から周囲を見回す。いつどこから来るか分からないから油断はできない。 なるべく視界の良い道を選びながらバス停に向かう。 バス停には知り合いの男がそわそわしながら立っていた。 「柳。おはよう」 柳に声を掛けると柳は驚いた表情をしてこちらを振り返ったが、俺の顔を見てほっとした顔をする。 「井上さん。おはようございます」 柳は大学の時の後輩で同じ映画サークルに所属していた。80年代のB級映画が好きという俺の趣味と柳の映画の趣味が妙に気が合ってその時から仲がいい。 「井上さん。調子はどうですか?」 「悪くはないよ。緊張しているのか?」 「そりゃあ緊張しますよ。何回経験しても慣れるものじゃないです。井上さんは随分落ち着いていますね」 「いや、俺だって緊張しているよ。開き直って強がっているだけだ」 「その気持ち分かります」 道の向こうからバスが走ってくるのが見えた。俺たちが並んで立っているバス停の前に停まる。扉がブシューという空気音と同時に開く。中には同じようなスーツ着た会社員らしき男性に学生服を身にまとった男子生徒が緊張した面持ちで立っていた。 中に入ると座席は空いていたが誰も座っていない。普段なら考えられない光景だったが今日は当然ともいえた。 「井上さん。奥さんと娘さんは?」 入り口のすぐ側に立った私の横に並んでたった柳が聞いてくる。 「実家に帰っている」 「……そうですか」 「お前のところは?」 「家もです。田舎の実家に今朝到着したそうですよ。久しぶりの祖父母にあって娘は喜んでいるようです」 「そりゃよかった」 そこで会話は途切れた。バスの扉が閉まって発信する。慣性で体が横に持っていかれるのを踏ん張ってこらえる。 柳も俺もほとんど言葉を発しなかった。車内にいる全員が同じだった。車掌のバス停名を告げる放送だけがバス内に響いていた。
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