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「とにかく、周囲に気を付けて会社に向かうぞ。この辺りのチョコレートどもはいなくなっていそうだからな」 先程まで自分が乗っていたバスの中の人数と道に倒れ居てうめいている人間の数から判断する。奴らは人に食べられたいという本能を持っているが、それは誰かひとりに食べられたいというものだ。たった一人に自分の全てを食べさせる。腕だけを食べさせて他の部位を違う誰かに食べさせることはない。一匹につき一人。それ以上の犠牲はでない。 これはもともとの意中の人物にチョコレートを与えるという習慣から来ているのではないかと考えられている。つまり、奴らは簡単に言えば九十九神のようなもので、長い年月チョコレートをバレンタインデーの度に重要視してきたことから生まれたものではないのかという説もある。 懐から拳銃を取り出して周囲を警戒する。もちろん実弾は入っていない。カカオの成分を分解する薬剤が塗られてゴム弾が入っているだけだ。威力もモデルガン並みだが、奴らはこの弾に当たっただけで勝手に分解されてその存在を保てなくなる。 「奮発しましたね」 柳が隣で言ってくる。実はこのゴム弾1発1000円近くもする。撃ったからと言って確実に当たる保障もないためやたらと金がかかるのが欠点だ。 「無駄弾は撃たないようにするさ」 この日の為に俺は射撃競技を始めて練習してきたのだ。 「僕はこれで行きますよ」 背中に背負っていた細長い筒状の鞄から金属バットを取り出す。奴らに近づかないと倒せないという欠点はあるが、扱いやすく弾切れがないという点では優れている。 べちゃりと。背中側から音がした。振り返ると路上に茶色い塊が落ちていた。上を見上げる。 ビルにチョコレートが張り付いてその顔らしきものに開いている真っ黒な穴が俺たちを見つめていた。 直後、ビルから飛び降りたチョコレートが柳に覆いかぶさろうとする。すぐにチョコレートに標準を合わせて引き金を引く。パンと軽い音とともにゴム弾が飛びチョコレートに当たった。 チョコレートは空中でドロドロになって溶ける。柳が慌ててこちらに逃げてくる。 「ありがとうございます」 「油断するなよ。まだ会社までの道のりは長いんだ」 俺たちはうなずき合うといつもはバスに乗っていく通勤路を二人で歩き始めた。
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