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京子の足は止まった。
ゆっくりと振り返る。
その涙を含んだ顔を見て、幼少期の記憶が1つよみがえった。
『きょうこ?お母さんと同じ名前だ!じゃあ君は…わたりきょうこだから、間をとって「りき」ね!』
親しくなろうと、幼い俺が考えたニックネーム。
俺はそれだけを覚えていたらしい。
「思い出したよ。えっと…また、会えたね」
「…だいちゃんっ!」
彼女は方向転換して俺の方へ飛び込んできた。
突然の事に驚きつつも、反射的に抱きとめる。
「ち、ちょっと、きょ…じゃなくって、りき?」
「だいちゃん!ずっと会いたかった!」
背中に回した腕にぎゅっと力を入れる彼女から、会いたかったという感情が言葉と共に伝わってくる。
俺も、抱きしめる力を少しだけ強める。
渡京子。
彼女こそ、俺が探してたりきだったみたいだ。
何故気付かない。
良く見れば、面影だってあるのに。
そんな彼女と抱き合って再会をさんざん喜んだ後で、体を離して2人で照れて顔を反らした。
「ご、ごめん。抱きついたりして」
「べ、別に、大丈夫」
感情的になってたとはいえ、女の子と抱き合ってたなんて恥ずかしい。
幸い、誰にも見られてないからよかった。
「はぁ。でもこれでまた遊べるね」
「う、うん。そしたら…で、デートって事に、なるのかな?」
横目で彼女の顔を見ると、恥ずかしそうにはにかみながらそう言った。
デート、か。
「あはは。付き合ってるわけじゃないんだからデートじゃないんじゃない?」
「え…」
…ん?何だその驚いた顔。
「も、もしかして、それも忘れちゃったの?」
「な、なんの話…?」
「ぅ…も、もう知らない!」
「え、ちょっと!」
それから、互いに「好き」って伝え合った事を思い出すまでには1週間掛かった。
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