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ルルはエズメを伴って、礼拝堂に踏み入った。
「この集落には常在の司祭がいないの。近隣の村から訪問してくるだけ。だから、この礼拝堂は大抵がからっぽよ」
祭壇の燭台には長らく火が灯されてない。埃の厚みが見て取れた。
ルルは堂内の有り様を熱心に見回していた。腕には、触れた窓枠の蜘蛛の巣を引っ掛けていた。
祭壇の奥に覗く扉は控室である。設けられた寝具は真っ新なまま干乾びていて、筆記台には聖書が一冊、置かれていた。農民ばかりで文字を読める者がない。開かれることがなかったためか、紙面の角は揃い、奉られた聖櫃のような恐ろしさを発していた。
ルルが慣れた手つきで聖書の小口に指を挿す。見開いて、文字をなぞり、声にした。
エズメは聞き入っているようであっても、呑気に彼を眺めているだけだった。退屈しのぎに瞬きの数を重ねて、空想を瞼の裏に映している。ルルの音読が狭間を過ぎって、思考の焦点が行き来する内に彼女の想像が現実に叶う。
ルルの勤めを妨げる罪深さには思いも寄らないほどに若い欲望とは慎みを上回る。
「わたしたち、四旬節の前に告白するでしょ。全ての神の子の義務だからって。村人は全員、司祭に告白したわ。わたしもね。きっと、誰であっても自分を明らかにするべきよ」
ルルは顔を上げる。
「なぜ、わたしにそんな話を?」
「あなたのことがわかりそうな気がしたから」
ここは誰しもが真実を語る場所。失われた記憶ですら誠意を誓えば呼び起されるかもしれないと彼女は信じた。
少女の瞳は悪怯れない。
「教えて。あなたの、本当のことを」
彼女は司祭の役を演じてみる。
「隠そうとしたり、ためらってはだめよ。だって、」
エズメの唱える文言は確かではなかった。遊戯はお粗末に閉じる。
「何故なら、人々が犯す罪とは、悪魔にそそのかされたものであるのだから」
エズメに代わって、ルルが言葉を続けた。
「告解とは、各々の罪を認めて、互いに赦しの心を知ることだ」
ルルの微笑みがエズメを捕らえた。
少女を父の御許に導く閃き。彼の青に、彼女は天界の夢を見た。
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