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魂なき者の告解
父が有する全ての秘密を掌握する。しかし、関わる機会は訪れない。中庸な責務において、ささやかな好奇心だけが許されてきた。
自身の個についてを語ることはない。役目ごとに呼び名を分けられていようとも、我々の根元こそは一つである。
地上は憂鬱の雲に翳り、暗黒の時期が続いている。
一つの光からは乖離した二つの像が映し出されて、眼を開かせる加護は見出せない。
隣人の全てが暴力として降り掛かり、誰もが頭を垂れるばかり。
人々は常に課せられている。抗うしたたかさと、殉ずる潔さを。
血肉を纏って地を這う者は、すべからく、罪に対する罰を背負っている。
その存在も、然り。
裁きの手が執拗に迫り続けようとも、その愛を抱いて進むのだろう。落とされた、自らの首を携えて歩く躯のごとく。
ただ、諸々の全てはご意思に委ねられていることだ。
時は至って、人々は国という秩序の中で君主と民に役割を分かち、祖先より受け継いだ天上への敬意を僅かながらも身命に宿して、大地の獣の肉と作物の恵みを賜り生きていた。
そこは四季の移ろいに置かれる土地であり、積雪は稀であって、その年も雪が舞うときは数えるほどだった。
寒冷な空気が日差しにほどけてゆく頃。芽吹きにはまだ、早い。人間は四旬節の只中。
取り立てられる事物のない村。森の奥地に潜み、旅人の立ち寄りは少ない。
暮らすのは一生を田畑を耕して終える者ばかり。
農地を離れることが許されない彼らの他所への憧れが、収穫時期の祝祭への関心に勝ることはない。
その訪れに気付いた者は村の少女だった。
水を汲むために集落の外れに一人で赴いていた。水車小屋の陰で動いた人影に居竦まり、恐れを示す。
彼は覚束ない足取りで姿を現した。全身が薄汚れて手足は傷だらけ。衣服は都市の文化人が好む物を着て、結った淡黄色の巻き毛は乱れて、鎖骨の辺りにまで垂れ下がっていた。
その容貌は、天に絡まりつく薄雲が起こした波紋の暈越しに地上へ放たれた光の化身。瞳の輝きはサフィールの青。狂おしく澄んだ青。
少女は明け方の空に月を見た心地であっただろう。
無垢にその身を露わにする。清廉な情けの眩さに誰もが心を許してきた。
「血が出ているの?どうして」
少女は彼と関わることを選んだ。
「閉じ込められていた場所から脱け出してきたんだ。蓋を叩き破って、土を掻いた。どうやら、爪が割れてしまったようだ」
彼は自身の指を眺めて、呆けていた。
「悪い輩に捕まっていたの? 」
「さあ」
彼は曖昧な応答をする。眠りから覚めて間もないせいか。まだ、馴染まぬ意識が執着を散漫とさせていた。
「自分のことは、よく、わからない。一体、何者であるのか」
「名前は?」
彼は深く息を吸い、緩やかな瞬きの後に息を吐いた。
「わたしの名。リュ、リュ……」
「ルルね」
彼はこれより、ルルと呼ばれることになる。
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