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 彼女に逢うのは、もう何度目だろう。  いつも彼女は、別れるときに「さよなら」とは言わない。  彼女の口から零れる言葉は、いつだって「またね」。  ぼくはその言葉を一体何度聞いただろうか。  はじめて彼女に逢ったとき、ぼくはまだなにも知らない子どもだった。  菊綴のついた水干を纏った少年。それが、ぼく。  彼女はそのときは、十二単を纏った綺麗な女官。  南北朝、戦国、元禄、幕末――  彼女はぼくのことなんか欠片も忘れているのに、ぼくは彼女を見るたびに鮮明に思い出す。  彼女の口が紡いだ「またね」という言葉を。  その言葉を口にするとき、いつも彼女は微笑んでいた。  ぼくはその笑顔を見て、次もまた会えるのだと信じられた。  そして今日は、高校の入学式。真新しいブレザーを身に纏ったぼくは、緊張した面持ちで教室にはいった。  ――そのぼくの目の前には、同じように新品のブレザーを着た少女が、にこりと微笑んでいる。  見間違えるはずもない、彼女だ。  次、「またね」と言われるのはいつか判らないけれど。   それでもぼくは、何度目か判らないけれど、一目で恋に落ちていた。
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