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「バルト、お前に頼みがある」
ルルウが相棒に望むのは、ただ一つ。
「遅かれ早かれ、彼女はいつか真実を知る。そうしたら、真っ先に俺を殺しに来るだろう。だがもし彼女が俺を殺すことを躊躇ったら、その時はお前が、俺を殺してくれ」
「……本気か?」
「ああ」
彼女が軍に囚われている間は、生きていなければならない。
彼女を守るためにも、自分が覚醒したことは伏せておくのがいいだろう。軍に知られれば、どこか人目につかない場所に監禁されるのは目に見えている。
今、孤独な彼女のそばを離れるわけにはいかないのだ。
だが、彼女が自由になる日が来れば別だ。
人間の血液を飲まなければ狂ってしまう。そんな化け物になってまで、生きていたいとは思わない。
「……お前は、酷いやつだよ」
暫しルルウと対峙していたバルトは、低い声色でそう吐き捨てた。そしてフッと口角を上げ、切なげに微笑する。
「だけど、俺にしかできない役目だもんな」
「バルト……」
それ以上何も言わず、バルトは身を翻す。「先に帰ってる」と明るく告げた彼の拳は、固く握られていた。
ルルウは心の中で彼に謝罪し、再度燦々と輝く太陽を見つめる。
彼女が見たいと願うこの大空を、共に見ることは叶わないかもしれない。
ならばせめて、残された時間をできる限り彼女と過ごそう。
彼女が自分の嘘に気づくまで、彼女の愛に応えよう。
何も悲観することはない。
愛しい彼女の姿をこの瞳に鮮明に映し、彼女と同じ感覚を味わえるようになったのだから。
フィリアが大好きなラズベリージュースと、グラスを二つ。
ルルウはそれらを手に、明日また彼女に会いに行く。
闇と戯れながら、二人は危うい幸福に身を浸すのだ。
残酷な世界の片隅で、
「さあ、乾杯ーー……」
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