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この世界には、吸血鬼(ヴァンパイア)という存在がいる。
フィリアはそのことを、外界から閉ざされた地下室で知った。
―――――
―――
白いタイルの床に、漆喰の壁と天井。何の変哲もないその部屋で、彼女は寝台に腰かけ、ある人物の到着を待っていた。
彼女自身が出す衣擦れの音だけが、しじまの中で空気を揺らす。
彼が最後に部屋を出て行ってから、もう十六回、砂時計を引っ繰り返した。
いつもなら、だいたい十二回と半分の砂が落ちるまでには戻って来るのに。
そう思って、徐に息を吐き出した時だった。遠くで金属の扉が開く音がして、フィリアは顔を上げる。
彼が来たのだと、すぐに分かった。
浮き立つ胸に手を当てて、ドアに駆け寄る。
近づいてくる足音を聞いている時間が、フィリアは好きだ。
早く早くともどかしい気持ちになるものの、それ以上に愛しさが募る。
カチャリと鍵が回り、重い鉄製のドアが開く。あの甘い香りが、ぶわりと雪崩れ込んできた。
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