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ルルウは無言で足を止め、空を仰いだ。
雲一つない澄んだ青空に目を細め、先ほどまで腕の中にいた少女を思う。
美しく可憐で、愛らしいフィリア。
光の届かないあの冷え冷えとした地下室では、彼女の流れる金髪も、血色の瞳も、常人離れした端正な顔立ちも、ぼんやりとした輪郭としてしか見ることが敵わない。
しかしそれでも、彼女が自分に向ける真っ直ぐな愛だけは、しっかりと感じとることができる。
十数年前、軍が秘密裏に拐ってきた吸血鬼の子ども。それがフィリアだ。
軍は彼女を厳重な警備を敷いた地下室に閉じ込め、一切の自由を奪った上で人間同様に育てた。
人間を遥かに凌ぐ強さを持った吸血鬼。その未知の生物を監禁し間近で観察することで、生態を研究しようと考えたのだ。
外界との接触を禁じ人間として育てれば、吸血鬼は人の心を持ち得るか。吸血鬼に対抗する人類の新たな武器ーー否、都合のいい駒にになり得るか。
研究の成果は出ている。
彼女は自分が吸血鬼だなどとは、夢にも思っていないはずだ。
暗闇の中で鮮明に物を判別したり、並外れた聴覚や嗅覚を持っていたりと、吸血鬼としての能力は衰えていない。
けれど、彼女はルルウがつく嘘には気づかない。
人類が既に吸血鬼から陸地の三分の一を奪還しており、地下で暮らす必要などないことも。
外は危険だからと理由をつけて、部屋のドアに何重もの鍵をかけることも。
普段ラズベリージュースと偽って、人間の血液を飲ませていることも。
ルルウを信頼しきっている彼女は、ほんの僅かな疑いすら抱かない。
「彼女が吸血鬼だから、何だって言うんだ」
「ルルウ?」
「彼女をあんな場所に閉じ込めるべきじゃない。そんなこと、絶対に許されない」
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