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「上の命令に意見するなんて、お前らしくもない。まさか、あの吸血鬼に情でも移ったのか?」
ルルウの沈黙を肯定ととり、バルトは「おいおい冗談だろ」と目を丸くした。
「お前、正気か? 相手は吸血鬼だぞ。俺達と毎日殺し合ってる化け物だ」
「……確かに、俺は正気じゃないのかもしれない。だけど、これだけは言える。軍のやり方は間違ってるんだ。こんな乱暴な方法じゃ、本当の平和なんて手に入らない」
「何を根拠に、そんなこと」
「根拠なら、ここにある」
言ってルルウは、自身の胸を数回叩く。
首を傾げるバルトに薄く笑って、再度口を開いた。
「今お前の目の前にいる、俺が証拠だ」
「どういう意味だよ」
降り注ぐ日光を浴びる肌が、ジリジリと痛む。ルルウはバルトの手をほどき、建物の影へと歩いて行った。
「軍はまだ赤ん坊だった彼女を捕らえ、実験材料にした。目的は二つ。一つはお前が知っての通り、彼女を使って吸血鬼の生態を調べること。
そしてもう一つは……吸血鬼が人間から生まれた存在であると、証明することだ」
二人の間を、音も立てずに風が吹き抜ける。
唖然とするバルトに、ルルウは「信じられないか?」と問いかける。
ゴクリと唾を飲み込んで、バルトは前髪をかき上げた。動揺した時の彼の癖だ。
「吸血鬼が、人間から生まれた? 何言ってんだよ」
「嘘じゃない。昔、とある科学者が不死を求め、自らの体を用いて様々な実験を行ったらしい。もちろん簡単にいくはずもなく、失敗の末に何度も死の淵をさ迷ったそうだ」
「その研究が、成功していたと?」
「不死とまではいかなかったが、ある程度はな。だが科学者は強靭な肉体を得る代わりに、人間の血液を飲まなければ理性を保てない化け物になり果てた。それが、吸血鬼。
そして吸血鬼は、体液の交わりを通じて同胞をつくり出すことができる」
「……迷信だ。現に、吸血鬼に噛まれたらやつらの仲間になるっていう話は間違ってたじゃねーか」
「それは人間の創作だからだ」
「お前の言ってることも創作だろ。じゃなきゃ、あのフィリアとかいう吸血鬼と関係を持ってるお前はーー」
早口に捲し立てていたバルトは、そこでハッと口をつぐんだ。
信じられないという顔でルルウを見つめ、一歩後ずさる。
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