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タクシーでバス乗り場に到着すると、田中君は既にベンチに座って僕を待っていた。
長く待たせたことを謝ると、少し眠れたから気にするなと言ってくれた。
彼は、駅近くのインターネットカフェで夜を明かしたのだとか。
田中君は僕の顔を見て、何か言いたそうな素振りを見せていたけど。
結局は、何も聞かなかった。
だから、僕も何も言わなかった。
それは、田中君の優しさだったのかもしれない。
高速バスでは、僕も田中君もぐっすり眠ってしまったようで。
だから僕らは、ほとんど会話をすることがなかった。
だけど、あと少しで終点に着くという時になって。
突然、田中君が僕の手を取った。
「菊池……」
「な、なに……?」
カーテンの隙間から照らされる太陽の光で、田中君の髪がグレーに染まる。
彼の顔はいつになく真剣で。
僕の心臓は、ドクドクとスピードを上げていた。
「俺は、お前を探す……。
いつか絶対に、
お前を見つけ出してみせるから……」
「田中君……」
じわじわと、指に力を込める田中君。
僕は自分の手を引っ込めることも出来なくて、ただ彼の綺麗な瞳を見ているしかなかった。
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