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考え事をしていたところに、たまたま自分が居たから、ふと言ってしまったのだろう。
「まだしたことないので、わかりません」
と言ったあとで、まあ、いいですよ、と向井の失言を許す。
「結婚っていいもんだぞ。
早くしろ、とか言ってきたら殴りますけどね」
と言うと、
「……お前、俺がそのセリフを吐くと思うのか」
と向井は言う。
確かに、バツイチ男が言うセリフではなかったな。
お互い失言でプラマイゼロだ、と思った。
「杏の親御さんには――
ああ、もう顔は合わせてますよね」
課長のご両親には? と訊くと、もう会わせた、と言う。
やはり、行動早いな、と思っていると、
「あんな若い娘さん、律の方が年が近いくらいなのに、あんた、騙されてるんじゃないの? と言われたよ」
と向井は溜息をついて言う。
「……そんないいもんじゃないのにな」
それは、まさに、自分が今、心の中で言おうとしたセリフだった。
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