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兄貴の部屋は今も、そこで生活してる人間がいるみたいな状態で置かれている。上京した時に持ち出された家具やらも、ここに戻ってきてじっと、埃をかぶっている。
オレの部屋を過ぎて兄貴の部屋の前に立つと、結以は一瞬顔を強張らせて「やだ」と目を背けた。
「入りたくない」
結以は兄貴が死んでから、兄貴の「存在」に一度も触れてない。葬式にも一回忌にも来ず、だから当然遺品なんか見たことない。たぶん墓参りにも、行ったことないはずだ。
「入れよ」
オレはためらいなくドアノブを押し開け、背中を突き飛ばすようにして結以を中に入れた。つんのめった結以は振り返ってオレを思いきり睨んだけど、オレはもう後ろ手にドアを閉めてしまっていた。
全体的に青っぽい兄貴の部屋。窓のすぐ下にある学習机の脇に結以を座らせて、オレはクローゼットを開いた。机や本棚から溢れた細々したもんが全部突っ込まれてるその中を漁って、スケッチブックを引っ張り出す。結以の正面にどかっと腰を下ろすと、結以は怪訝な表情をした。
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