始まりの場所、帰る場所

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「バカ」  膝を抱えて、その中に顔をうずめた結以の台詞は嗚咽に呑まれて、なんだか無理して言ったみたいに聞こえた。ずずっ、と洟をすする音がする。オレは結以の小さくなった背中に腕を伸ばして抱き寄せようか、と考えたけど、こんなシチュでも「キモい」と拒絶されることに変わりないは気がしたので、やめといた。 「またねって言ったじゃん。晴ちゃんあたしとの約束、一回も破んなかったじゃん」  なのになんで。意味分かんない。結以がうわごとのように兄貴への文句をぶちまけてる間、オレは結以のつむじを見つめて、全然ダメだ、と思った。オレは兄貴に勝てないどころか、届かない。いやそもそもあの兄貴に勝とうとすること自体無謀でどうしようもないんだけど、今は、勝たなきゃダメだった。圧倒的な存在になんなきゃ、結以はずっと兄貴に囚われたままになる。なのにやっぱり、兄貴はデカすぎた。  なんでだよ、と思った。なんで死んじまったんだよ、と初めて思った。死んだ奴は最強だ、だってずっと、綺麗なままでいられんだから。 「『帰る場所』に帰ってこなくて、どうすんのバカ」  兄貴が生きてる間はただの一度も悪口を言わずに、かっこいい、頭いい、背ぇ高い、あんたとは全然違う、と褒めまくってた結以が、初めて兄貴を「バカ」となじった。でもそれは、普段オレにぶつけてくる「バカ」とはまるで違って、潤んだ瞳で兄貴に見とれながら零した「大好き」と、丸っきりおんなじ性質を孕んでる気がした。
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