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「晴ちゃんて彼女いるの?」
結以が、オレと二人の時は出しもしないような甘ったるい声で兄貴に尋ねた時、オレたちは三人でこたつに脚を突っ込んでいた。オレんちは冬限定でリビングの端のテレビの前にこたつを出す。結以はさりげなさを装ってたけど緊張してんのがバレバレで、あーあ、とオレは思った。
「どうして?」
すっとぼけてんのか鈍感なだけなのかよく分からない表情で、兄貴はミカンをむいていた。どうしてって、と結以は言葉につまる。
「ほら、二十一歳ってあたしらにしたらすごい大人だし。どんな恋してんのかなーって、気になるじゃん」
とっさの言い訳感丸出しの発言だったのに、兄貴は「そっか」と納得してしまった。
「残念だけどいないよ。俺、モテないし」
「えー! うっそだあ」
「ほんとほんと」
信じられん、とわめきながら、あからさまに結以はほっとしていた。でもオレも、兄貴がモテないってのはぜってえ嘘だ、と思う。
「結以は彼氏ほしいの?」
「そりゃもちろん! 決まってんじゃん」
と言いながらねっとりと期待を込めた視線で兄貴を射る結以の方は見ないで、兄貴はなぜかオレに向かってにやっと笑った。
「結以は可愛いからすぐできるよ」
意地がわりぃ! とオレは腸が煮えくり返る寸前だった。兄貴は、結以が自分へ向ける好意はのらくらかわすだけのくせに、オレの結以への視線にはちゃんと気付いて、あまつさえ協力しようとするのだった。可愛い、という自分の発言に結以が赤面してることなんか全然知らないで。
オレはムカついた。ムカついて、さっさと東京戻れ、と正面の兄貴の脚を蹴った、つもりだった。こたつの中で行った攻撃は目標を見誤ったらしく、オレの右隣にいた結以が「いたっ」と声を上げた。
「ちょっと雄也、どういうつもり!?」
結以がオレを蹴り返して、オレもそれに反撃して、っていう応酬が始まると兄貴は「まあまあ」と結以の口にミカンの粒を放った。それだけで結以はすぐ上機嫌になって、オレはますます、気に入らない。
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