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「じゃーな」
投げやりに結以に背を向け、改札を抜ける。雄也、と声が追ってきて、なんだよまだあんのか、とイラついて振り返ると、
「いってらっしゃい」
思わぬ柔らかさで、結以が微笑んでいた。オレは度肝を抜かれる。抜かれて、あーやっぱ好きだ、と思う。フラれたばっかなのに。
「今度、晴ちゃんのお墓参り付き合ってね」
おう、と答えて、オレはもう行ってしまおうとした。あんまり長く留まってると、離れたくない、なんてそれこそキモいことを考えてしまう気がして。でも途中で思い直して、オレは結以を見据える。ん? と結以は小首をかしげる。
「またな」
今度こそ、結以は両目を丸々と膨らませて驚いていた。泣かれるかもしれない、怒られるかもしれない、そんなこと言うなと罵られるかもしれない。たくさんの心配が頭を駆け巡って――でも結以の反応はそのどれでもなく、ふ、と表情を崩しただけだった。眉を下げてちょっと困ったように、けど確かに、笑った。
「またね」
兄貴にできたことができないオレは、でも兄貴ができなかったことを、できるかもしれない。かもしれない、じゃなくて、しなくちゃならない。
大丈夫、できる。ここに、結以のとこに、帰ってくる。それだけでいいんだから。結以の「またね」を、ちゃんと受け止めて持って帰ってくりゃいいんだから。
次はぜってー、兄貴に勝つよ。オレは心の中で力強く兄貴に宣言して、一歩、東京へと踏み出す。
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